当番制のブログもついに1周目最後の1人となりました。はじめまして、劇団あはひの古館です。
“あはひの東です”という前記事の題を見てふと思ったのですが、所属の宣言って実はなかなか難しいですね。というのもわたしは他にもいくつかの”〇〇の”を持っている(つもりな)ので。ただ、ここで”劇団あはひの”と言わせてもらえることをわたしはとても嬉しく思います。またそれと同時に、元はといえば唯一の慶應人として単身参加した見ず知らずのわたしをみんなよくもまぁここまで受け入れてくれたな…とも。本当に有難い出会いでした。

さて、自己紹介もそこそこに、例の東くんからキラーパスを受けたため3日間に渡って行われた読書会の詳細をしっかりと伝えなければと思います。本当は最近寒いですね、みたいな毒にも薬にもならない話をしようと思っていたのに。書きだすと長々と書いてしまう人間なので、飽きられない作文をがんばりたいと思います。

元はといえばこの度の”読書会”が指す催しは、『遊園地再生事業団』や『オフィスマウンテン』『木ノ下歌舞伎』などに出演歴を持つ宮崎晋太朗さんの発案によって行われる運びとなりました。わたしたちの目線に立っていろいろな道を示してくださる優しい宮崎さん。読書会最終日にはなんとピザパーティーも企画してくださいました。本当に優しい。

とまぁそれは置いておいてこの読書会、当初の企画としては上妻世海『制作へ』をみんなで読み砕こうというものでした。これがまた難しい本。できれば各々読んできてと言われていたものの、実を言うと途中で断念していました。とはいえ他の劇団員からも最初で挫折した、読んだものの理解はしていないという話を聞き、わたしはこっそり安心したのを覚えています。

ただ実際に会が始まると、冒頭部を輪読したりその内容について話し合ったりこの本を軸に始まりこそしたものの、そこから各々得られたものや生まれた問いなど、様々な方向への深まりに身を委ねて進んでいく形となりました。宮崎さん自身も捉えきれていないと仰っていたこの本。みんなで読む、という形である意義がそこに表れた気がします。

中でも結果的に3日間の主軸となったのが、本文中で心に刺さった箇所をそれぞれ葉書に書き出すという試みでした。最初は言われるがまま手探りで作業を進めていたわたしたちでしたが、気づくとそこにはしっかりとそれぞれの色が出ていました。さらにその葉書に抜き出された部分は各々に関しての課題であると言われ、それを問いとしてそれに準ずる実験を考えてくることが課されました。実験なんて言葉、高校の化学以来触れていない。わたしは困りました。しかしさすがの宮崎さん、そこでもまた先例を示してくださったのですが、それがまたわたしたちにとって大変な勉強の場となる実験だったのです。

宮崎さんの”『制作へ』における〈と〉の空間とは?また、「作品」とはどこからを指すのか”という問いに対して、その実験の足場としてまず取り上げられたのが濱口竜介の『ハッピーアワー』でした。そう、今話題の『寝ても覚めても』の監督、濱口竜介です。
彼の『ハッピーアワー』を筆頭とした演技論(この言葉が合っているのかわからないけれど)には特有のものがあり、それがわたしたちの取っ掛かりとなりました。「紋切り型の感情表現」を避けるためにあえて電話帳を読むように台詞を読む、本読みの際に勝手なニュアンスが生じないよう「聞く」ことをしないなど、それは演劇においてともすれば逆のことを促されうるような方法でした。しかし実践を通してその方法と向き合っていくうちに、わたしたちはテキストに対する演者の在り方について疑問を抱くようになっていったのです。

というのも、実験として全員が感情を排することを念頭に置いて行われた本読み。母国語が日本語ではない劇団員の言葉の方が心地良く感じたり、感情が高ぶる役は逆にやりにくかったり、そういったことに直面し、そこで議論にあがったのは観客の介入する余地の重要さでした。読み手を変えて感想を交換してはまた読み手を変え、それぞれが同じ疑問を抱えながらそういったトライアンドエラーを繰り返すことで、”演者は演者のままテキストでもある”という濱口の言葉の意味にわたしたちは少しだけ近づけたような気がしました。

そして最終日にはそれらの経験を踏まえ、いよいよ劇団員自身の問いと実験を実行に移すこととなりました。そこで行われたのは大まかに2つ、”捨てられない”ということ対する同じ絵を見てそれぞれの感想を書きだすというものと、”他人を通して自分を知る”ということに対する雑談をテキスト化してそれを別の人間が読んでみるというものでした。前者に関してはその問いに対する実験としてはそれでは不十分ではないかという意見により視点を変えた追加実験が考えられたり、後者に関してはやればやるほどまた新たな問いが生まれ興味が尽きなかったり、様々な意見を持った個人が集まるからこその方向に議論は発展する一方でした。

また、個人的に後者の実験の提唱者であったわたしはテキスト化した雑談の提供元となったものの、なぜか”きゅうりが世界で1番好きな食べ物だ”というトークテーマで会話をさせられ(それ自体は事実)、しかもそのテキストを元に別の劇団員が演技したりするのだから恥ずかしいような嬉しいようななんとも言えない気持ちになりました。しかしそれにしてもそのテキストに付けられた「キャビアよりきゅうり」という題名はあまりにダサい。
また、次回の予定をその場で決めたのですがその予定日がなんと12/24、クリスマスイブ。まぁだから何、とは言いませんが。その場にいた全員が空いていたのだから仕方のないことです。

そして、3日間の読書会も終わり、最後にはみんなお待ちかねピザパーティーが行われました。人数に対して多すぎるピザ、失われゆく終電。結果わたしたちは夜通しピザを片手に、笑ってはいけない神経衰弱や大富豪をする羽目になりました(もちろんすごくいい意味で)。極限の状況下に置かれるとわけのわからないことがむしろ面白くなってしまう。笑ってはいけないシリーズやドキュメンタルなどを見ている人にとって、1度はしてみたい体験ではないでしょうか。わたしは翌朝仮眠のつもりが起きられず授業を切ってしまうところまで含め、とても有意義な読書会だったと思っています。

さて、期末課題かと思うほど長くなってしまった今回のブログ、演劇に1mmも興味のない人にはさぞ退屈なものだったかもしれません。ただここに訪れてくれている時点で1mmは興味を持ってもらえてるのでは、そんな期待も込めて(これでもほんの一部に過ぎないけれど)こんなに長々と読書会レポートを綴ってしまいました。そうだな、次回はもう少し明るくポップに好きな寿司ネタの話でもしようと思います。最後までお付き合いいただいた方、本当にありがとうございました。最後は意外とあっさりしたものですが、それでは2周目、大塚健太郎に戻ります。